_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_
震災復興と景気回復には    平成二十三年八月上旬   塚本三郎 

 退陣表明をした首相が、国政をわたくし視する「異常事態」の数々は、復興をめざす日本経済にとって最大の足かせになりつつある。

 首相は法令に基づかず、中部電力・浜岡原子力発電の停止を突然要請した。

 続いて全国の原発の再稼動に、法令以外の、ストレステストを課すると決め発表した。

 そして七月十三日「脱・原発依存」の記者会見までも行なった。

これは、戦後エネルギー政策の大転換であるが、あまりにも内容が空疎である。日本社会の在り方を、大きく左右するエネルギー政策転換の是非は、国民の意思を問うのが望ましい。しかし、レーダック(死に体)化した首相が、それをやるのには無理がある。

 信頼も信用もされない総理は、何をやったって、存在それ自体が政治空白だと、新聞各紙は社説で述べている。「一刻も早く身を引くことで」、自らの失政で失った政治への信頼を回復し、大震災からの復興を本格的に軌道に乗せることだ。

 菅首相の一連の発言は、野党時代の、大衆迎合の無責任さが、ことあるごとに露出する。

 その結果が無責任な政権の政策に浮上し、かつ延命の具に利用されている。

 十三日の突然の発表では、「脱原発解散を否定」してみせたが首相の本心は判らない。

 日本のエネルギー政策の大転換であれば、本気で実施を考えれば、衆議院解散によって民意を問うことは、当然の儀式である。当然のことでも、死に体の首相がわざわざ否定しつつも、これを言い出したのは、矢張り延命の為の解散の下準備と勘ぐる。

 とかく、左翼的論調のメディア各紙でさえも、社説で、潔く菅首相は身を引くべきだ、と堂々と掲げる今日この頃である。それでも、首相を取り巻く一部の人におだてられているのか、支持率十%台に下がった今日も、なお延命の発言を忘れない。


「原発 着実に前進を」と経団連提言 

経団連は七月十二日、原子力発電を着実に前進させることなどを柱とする、エネルギー政策に関する提言を発表した。菅直人首相が、原発依存を弱める方向での、エネルギー政策の見直しを表明しているため、経済界の意見を明確にするのがねらいである。

日本企業の国際競争力が低下するなか、産業空洞化の加速を避けるためには「今後5年程度の安定した電力供給が不可欠」としている。

提言は、このまま電力不足が続けば、企業活動や雇用維持の足かせになると警鐘を鳴らし、今後も安定供給の見通しが立たない場合は、生産拠点の海外移転や、国内新規設備投資の抑制が避けられないとしている。当面の電力供給確保に向け5年程度の工程表の策定を急ぎ、定期検査終了後の、原発の早期稼動や、火力発電の燃料となる、石油や液化天然ガス(LNG)などの円滑な調などを求めている。

そのうえで平成三十二~四十二年に向けた中長期視点で、各エネルギーの長所・短所を踏まえたベストミックスを検討すべきだと提案。

安全確保を前提に、原発を着実に推進するほか、火力発電の高効率化や日本の自然環境に合った、再生可能エネルギーの導入などを検討すべきだと提言。 (産経新聞 転用)


首相が今回打ち出した脱原発の方針は、日本のエネルギー政策の、根本的な方向転換につながるものである。にもかかわらず、閣僚で議論が進んでいない。

原発の新たなる安全評価に関する「政府統一見解」をまとめた際も、首相から関係閣僚に「脱原発」についての具体的指示は一切なかった。

民主党内に於いて、事前の調整もなく、首相が方針を打ち出したあげく、尻すぼみの状態となった、幾多の思い付き政策が山ほどある。それが菅首相の醜態そのものである。

原発はエネルギー政策の根幹

原発の新設は、中曽根内閣にを発し、田中角栄政権の下で全国的に普及して、今日の原発の土台を形成して来た。

云わば、戦後自民党の歴代政権が、エネルギー政策の根幹として成長させた政策である。

その根幹が揺らいだのは、民主党菅政権の福島原発大震災の対応の失敗が中心である。

自らの失敗を省みることなく、原発は悪とする、一方的な発言は、あまりにも唐突であり、かつ無責任である。――この一国の重大事である、エネルギー政策の大転換を「死に体」の首相が、閣内の議論を経ずに、突然一方的に、記者会見で発言する暴挙にはあきれ返る。後日各官僚に責められて私見と訂正したが。

エネルギー問題に於ける原子力発電の、危険と苦労の歴史を再検討することに異論はない。それは新しい政権の下で、じっくりと時間をかけて論ずべきではないか。辞任を表明した首相が一方的に結論を打ち出すことは、「狂気の論」とも云うべきだ。

科学技術の進歩した今日でさえも、原子力発電損傷の始末が、不可能視されているが、それさえも、じっくりと取り組んで、再生可能の道を開くべく進める努力が求められる。

日本の技術陣の偉大さを信じ期待したい。世界に先駆けて進みつつある原子力問題こそ、科学技術日本のため、不可能を可能にするためにも取り組んで欲しいと願う。

 国民生活にとって、エネルギー問題、とりわけ電力事情は、近代生活にとっては不可欠の条件である。ゆえに、その主力の一つである、原子力発電の損傷は重大事であろう。

放射能の及ぼす影響は軽視すべきではないが、それが、余りにも大きく報道されている。連日、うんざりする程の、細かいメルトダウンの報道が、市民生活に及ぼす「報道の主力」では一方的すぎはしないか。

 それよりも、直面する景気回復に、政府は全力をあげて、具体的施策を講ずべきである。日本国内には、やるべき仕事がまだ沢山在る。報道機関も国民の眼に沿ってほしい。

 公共事業、公益事業は、失業者救済にとって、目下不可欠の事業である。

「事業仕分け」なる民主党主張の片寄りが、結果として無駄を省くとの宣言よりも、景気回復の手段を捨てていると云うべきではないか。

 逆に今次大震災によって、初めて国民が目覚めたのは、自衛隊の魂と能力である。

今日まで、何となく軽視しすぎた防衛力の必要を強く印象づけたことは心強い。

復興国債と云う「政府紙幣」

 震災復興と景気回復には莫大な資金が必要である。政府は、その財源に苦悩している。

幸い日本には、復興に必要な要員と設備には充分に余裕がある。まして空前の円高で、七月十三日には一ドル八十円を切った。世界的に日本円の信用力重視の結果である。

このまま放置すれば、復興の手段は徐々に遅れざるを得ない。必要な時には、「金に糸目をつけず」と云う言葉が在る。最近漸く「政府紙幣」実施の議論が表面化しはじめた。

例えば政府は「復興国債」を発行し、「日本銀行に引き受けさせる」方法である。

まず政府が大胆に、五十兆円発行すれば、当面の復興の施策に大きく、直ちに役立つ。

 資産の裏付け無き通貨の増発は、その価値が低下する。それは通貨の常識である。

これを増発している米ドルも、欧州のユーロも低下し、更に中国はインフレへと進まざるを得なくなっている。

 日本は、ただただ経済常識に従って、税収と国民負担による利息付きの「国債と呼ぶ政府の借金」に苦悩を重ねている。その結果、GDPの二年分余の借金まみれであり、政府の経済政策は身動きがとれず、益々失業者を増大せしめ、不況の泥沼に導いている。

 眼前に、大地震復興の大事業が、大きな口を開けて待っているのに、お金の工面に苦しんでいる。「政府紙幣」を発行し、復興に活用する絶好のチャンスと見るのに。

 通貨とは一体何なんだ。独立国には通貨の発行権が在る。それを「打ち出の小槌」とも呼ぶ。それを実施すれば、自国の通貨の価値を下げることは致し方がない。

 また、資源の乏しい国では、インフレを伴う。日本との深い関係国はそれぞれに、その被害を承知しつつも、自国の経済発展の為に、「打ち出の小槌」を利用している。

 五十兆の政府紙幣発行で、東日本の復興にメドがつく。その結果日本円がどれ程の円安になるのか、一ドル九十円に戻れば、日本経済界は、マイナスか、或いはプラスか。

 更に五十兆を加えて震災事業のみならず、公共事業として、道路や新幹線の整備に、また防衛力の強化に活用したら、一ドル百円になるのか、これは未だ空論であるが。結果としては、これほどの資金を注ぎ込めば、景気回復が息を吹き返すことになるのではないか。

 通常の経済発展の為に、この手段を用いることは良くない。だが、非常時には、どのも、自国の経済発展と政治事情から、非常手段として、行っている。

 日本は、かつて明治維新の時、太政官札によって新政府を発展させた歴史がある。

昭和四年の世界的大恐慌に対し、高橋是清蔵相は新政策で、一挙に景気を回復させた。

そして、敗戦直後の「新円の切り替え」による再出発等、明治以来の日本もまた、幾多の苦境を、通貨の発行権行使によって、経済の建て直しを成功せしめた歴史がある。

お金は造るものである。今日は非常時以上の経済大変動期であり、大災害時である。

今後、歴代政権が発行した国債、約九百兆円のうち、償還を求められる国債は、毎年利息を含めて、約三十兆円余が迫って来る。

 従来、毎年償還期限の国債は、同額程度の新規発行を繰り返し、更に増額して借金を膨らませて来た。政府紙幣を発行すれば、新規国債は売れなくなると日銀は反論する。

大震災を天与の好機と受け止め、円高と、デフレ・スパイラルに立ち向かう。

 リーマン・ショックの当時、百十三円の一ドルが八十円の円高の好機とあれば、概算して一ドル百二十円の円安となるまで、「政府紙幣」をもって償還国債も消化すればよい。

それまでには、一体幾らの政府紙幣を要するのか。三年で合計約百兆円ほどか。復興と景気対策で約百兆円で、計二百兆円。

 その結果国債が幾ら減少させることが出来るのか。否それ以上に景気を回復させて、幾らの税収増とさせることが出来るのか。冷たい、寒い日本経済から一刻も早く脱出すべき時が来た。「禍転じて福と為す」は日本人の生活習慣であり、魂でもある。

不幸は幸福転換への天の警告だと対処しよう。だが安易な紙幣の増発は、行政改革を遅らせ、国民の勤労意欲を低下させることを、厳に警戒すべきことは言うまでもない。


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