_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_
戦略なき国家は自滅する     平成二十一年一月下旬 塚本三郎 

日本丸が破損した訳ではない。ただ同盟国・アメリカ自身の金融破綻と呼ぶ大津波に、欧州も、中国も、悪乗りして来た為に、日本丸へ、更に大きく横波が打ち寄せて来た。

 年末年始にかけて、日本のマスコミは、百年に一度の大不況と、アメリカの声をまねて、そのまま日本国中に警鐘し続けた。その上、トヨタも、ソニーも、大赤字だと繰り返した。その報道に、日本丸の乗客は総立ちになっている。

 頼りとする日本丸の乗組員は、俺に船頭の舵を任せろと、乗客の前で、取っ組み合いの喧嘩をしており、その結果、日本丸そのものが、傾きかけている。

船頭は何をしている

 何れの国の政府も、この大不況を乗り切る為に、国家の命運がかかっていると、莫大な資金を投入して、景気回復に懸命の努力を重ねている。

 被害が少ないとは云え、世界をお得意とする日本も、政府が先行きの苦難を覚悟して、それなりの対策を立案し、国会に補正予算と、新年度予算案を提出している。

 日本丸の舵取りである国会に、すべての命運を委ねている国民は、一刻も速やかに、対策を実行に移して欲しいと願っている。

 国会は今こそ、与党も野党も一致協力して不況克服に取り組むべき時なのに、これは「国難だ」との認識がないようだ。双方の出した案を、相討ちでゼロにしている。

 悲しむべきは自民党内部の乱れである。政府として決定した案に、それぞれの議員が批判の声を外に漏らしている。意見があれば、党議決定の際に、堂々と主張すべきことは云うまでもない。党議決定し、国会に出した案を、議場で反対したり、マスコミに、不満の意志をもらしたりするなど、政党の体を為していない。

 総選挙近し思って、事あれかしと願うマスコミに向って、自己主張か、自己宣伝のつもりなのか、私見を語ることによって、自民党自身が、分裂の危機を招きつつある。

 小選挙区制の下では、政党の背景支持が無ければ、当選は難しい。それを承知で、根本の相違ではないからと、気楽に私見を語ることが、今日の麻生内閣の崩壊を招きつつある。

 麻生首相の語る、言葉の端々と表現の乱れも、悪意に報道されているとみる。

 日本のマスコミは、公正であって欲しい。日本国家にとっては天下の木鐸であるから。

 今日、日本国家の直面している「経済的混乱」を乗り切るには、日本丸の舵をとる政府の責任は重大である。ゆえに、一心に努力している自民党などの与党に対して、もう少し温かく見守ることも、大切ではないか。

 マスコミは、政府や政党の、足らざる処や欠点を指摘し、非難することは大切な任務である。しかし、その反面、根本に誤りが無ければ、少々のブレは、かばいあい、支援し協力することもまた、天下の木鐸としての任である。政府自民党を非難することによって、政権が傷を深めることは致し方が無い。しかし、それが為に、更に大きな傷を負うのは、国民自身であることを、マスコミも忘れてはならない。

 悲しむべきは、野党、とりわけ民主党の非妥協的態度である。

 民主政治は話し合いの政治である。

 旧日本社会党時代、野党が与党と話し合って妥協することは、国民に対して裏切り行為だとキメツケていた。その古い姿勢が、小沢民主党の今日にも表れているのは驚きである。

 問題が自民党に在ることは否定出来ないが、幸か不幸か、参議院が野党優勢であるが為に、与党が、積極的に低い姿勢で妥協の道を求めている。

 当面する経済の混乱を回避する為の、与・野党双方の提案に隔たりは少ない。

 世界中を巻き込んだ金融の恐慌に、各国が与野党一致して回復に取り組んでいる。それと比較して、日本では、この経済危機を、これ幸いと政権交替の好機と構えている各野党は、国家と国民を軽視した、党利党略とみえて仕方がない。

民主党は責任政党であれ

 自民党は内外共に、窮地に追い詰められている。この時こそ、民主党が大乗的見地に立って、「政府を助けること」が国民の為だと、自信をもって政府案に協力しては如何か。

 民主党は、こんな時こそ国家と国民の、小異を捨てて大同に付くべきではないか。

根本政策を改めなければ駄目だとか、政権を渡せ、その為には衆議院の解散が第一だ、との一点張りは、如何なものか。

 国民の眼は冷厳である。自公政権には、信用出来ないと、既に世論は示している。

 その受け皿に民主党が第一と固まりつつある。ならば民主党に天下を委ねても大丈夫、野党であっても、決して国家と国民を忘れては居ないとの態度を示すことが必要である。

この際、民主党は、国家、国民第一の党だと、信頼の第一歩を示す道を選ぶべきだ。

あせらずとも、あと半年余の間には衆議院を解散せざるを得ない。

民主党が解散をあせる理由のもう一つは、年末にも解散は避けられないとみて、選挙体勢の万全を指示し、そのため相当の資金まで各候補者に支給したと聞く。その資金は欠乏していて、補給に苦しいとの苦境がわからないではない。

その点は、与党もまた野党と同様の運命に在る。嘆かわしいのは、そこには、国家と国民の存在が無視されていることである。なんと恥ずかしい国会に堕ちてしまったのか。

衆議院選挙の結果は

 今年中には衆議院選挙が在る、その結果はどうなるか。民主党中心の野党が勝利するとマスコミは評価している。そうなるであろう。

 政権の交替は避けられないとみるが、「交替のされかた」が注目の的となる。

 民主党中心の政権が出来れば、果してどうなるか。また、長続きできるのか。

 天下を手中に治めれば、従来約束して来た政策の実施は、当面は無理だが、それなりの現実性のある施策を、政権党として実行するであろう。

 現実的な政策運営をすれば、従来宣伝し公約してきた、マニフェスト違反となる。宣伝して来たマニフェストそのものの実行に無理の案が多かったから。

民主党が、現実性のある政党になれば、党内に造反が待ち受け、雑音がかまびすしくなり、マスコミは、今迄とは逆に、温かさが冷たさに変わるに違いない。

 民主党の内部は、各種の集団の混合とみられ、その違いが目立ちはじめる。

 まず第一に、松下政経塾出身の国会議員の集団がある。この人達は、極めて常識的であり、政策的には保守志向で、彼等の多くは、現在の小沢指導は意に沿わない。併し、一つにまとまらなければ、選挙制度上、勝利は無理だから、心ならずも同居しているとみる。

 第二に、かつて私が所属していた民社党系の議員である。この人達は、外交、防衛政策では、小沢氏の主張とは相反する立場である。それなのに、残念だが声をひそめている。

 また、その支持団体として、旧同盟と名乗った、民間産業の労働組合が支持の基盤となっている。参議院では、この組織代表の多くが民主党に居る。旧民社党系議員とて、一度は政権の座へと願っているだろうから、自民党を排して、野党政権獲得に不満はない。

 だが、彼等は、何が為に国会に登場したのか、と云う「選出された大義」だけは忘れていない筈である。

第三には、旧日本社会党の左派的集団である。もともと共産主義に思想的共感を持ち、人民戦線的思想の持主である。この人達は、対自民党との対決では、潔い主張を繰り返し、目下民主党内の大勢を動かしている。市民活動家を自負する人達も混じる。

政界再編と国運の危機

 日本国家にとって最も理想的な選挙の結果は、自民党が負けて過半数に届かないこと、そして民主党が勝って倍増するが、過半数に届かないことであろう。

 その場合、自民党も、民主党も、残る少数会派と連合するよりも、この二大政党が、この時こそ、大連立を組むべきだ。もともと、自民も、民主も、右と左に、三分の一程の異分子を抱えている。この人達を意に介さなければ、自民も、民主も、殆んど思想的に相違は無い。今日の民主党は、三分の一の、左の勢力に動かされているとみる。しかし、この時こそ、民主党が左翼勢力に動じることなく、国家の為に主導権をとるべきだ。

 最悪の組み方は、今までの野党が協力をして来た成果であるから、今度こそ政権を渡せと、一緒に行動して、野党連合が政権を組むことである。

 それは「公約」や「マニフェスト」通りで聞こえは良い。しかし、彼等の主張は野党だから許されるが、政権担当の責任政党となれば、それを実行出来るのか。

国家存立の基盤である、外交、防衛、そして国の財源を軽視したのでは、政策の実行は無理であり政治でなくなる。恐らく政権は永く持たないとみる。

 一度は、彼等野党に政権の運営をさせてみて、現実政治の厳しさを経験させるよと言うことも一つの考え方である。野党暮らしの永い人達に、政権の大義を勉強するためには、良い機会とみる人も少なくない。もっともの意見である。

 されど、彼等が公約そのままの理想を実現するとすれば、特に外交と防衛で、問題を起すことが心配される。即ち、「村山談話」の悪夢を思い出し、次のことを警戒する。

今日の日本は、中立を保っているが、巧妙な中国の手口によって、反米枢軸に組み込まれ、すでに触手は、日本の政界、マスコミ界に差し伸べられているようだ。

 日本は中国の「独裁国家」と組んではならない。その結果は第二のチベット、新疆ウイグルと同様の運命になると知るべきだ。日本は今や、重大な危機に直面している。

戦略なき国家は、羅針盤なき航海に似ている。やがて大海に迷い、海底に沈む運命が待ち構えている。第二次世界大戦で日本の将兵は善戦した。しかし戦略なきため、約二百万人の戦死者と、百万人以上の犠牲者を出して敗れた。

 日本が第二次世界大戦の地獄に踏み込んだ責任者の一人、松岡洋右外相は、決して反米主義者ではなかったが、当時、独裁者の猛進撃によって、欧州の勝者となると予測して、ドイツのヒトラー、イタリーのムッソリーニと三国同盟を組み、加えて、ソ連のスターリンとさえも心を許して、中立条約を結んでしまった。失政の歴史は為政者の鏡である。

 今日の世界は、国家が強くならなければ正論が通じない。日本はまず国家戦略を確立し、憲法を改め、軍事力を強化すべきだ。ナショナリズムと言われてもよい。それが日本の平和を守り、アジアを静める日本の使命である。