_塚本三郎元民社党委員長小論集_

進むも・退くも、地獄の民主政権    平成二十四年七月上旬    塚本三郎


 さきの総選挙で民主党は、数々の公約を宣伝して大勝利を得た。
消費税増税は行なわない。そしてマニフェストと称して、数々のバラマキの福祉(4K)を掲げたことが、有権者から期待された、それが勝因とみる。
 然るに、鳩山、菅、両首相の失政を省みて野田首相は、数々の公約を撤回し、逆に自民党案を丸呑みにしつつある。ならば民主党は政権に就いた正統性を失う。
 結果として国民を欺いたことになる。従って党内の反発は必至であり、小沢氏らも離党をほのめかすことで野田政権に揺さぶりをかけてている。
 何より、首相が党の執行部を預けている輿石東幹事長が黙ってはいない。
 輿石氏は「(消費税増税法案を)採決しない、党を割らない、(衆院を)解散させない」をモットーにしていたとされ、これらは「輿石3原則」とも揶揄されていた。
 輿石幹事長は、小沢一派の反野田の一番手として、新政権の幹事長に迎えられた。
 野田首相にとっては、小沢氏との橋渡しを名目に、自陣営への取り込みを策した。小沢氏にとっては、野田首相へ造反の為と「抑えの役」を輿石氏に命じたはずだ。
 輿石氏は野田氏を支えようとは思っていない。幹事長として、政権与党内で、権力を振るえればよく。それでも首相との対立には限度がある。
 野田首相が「政治生命を懸ける」と言明していた、消費税増税を衆議院で通過させた(六月二十六日)。――民主党内で五十七名が反対し、十六名が棄権・欠席した。
 衆議院で大量の造反者を出して、民主党は分裂状態となった。
 注目されるべきは、小沢一郎、鳩山由紀夫という党代表経験者二人が「我々こそ正義」と言って反対票を投じたことである。
 首相が厳命した重要法案に、堂々と反対すれば、厳しい処分を覚悟の上とみなければならない。小沢氏も、鳩山氏も、処分は覚悟の上、むしろそれを機縁に分裂を拡大せしめ、新党を結成するチャンスと、仲間には宣伝している。
 野田首相は、自分の意志を貫いて、彼等反対した一派を切るか。それとも、分裂は致命傷となるから、この不穏分子をも抱え込んで、多数党としての体面と、政権保持に我慢するのか。まさに、進むも、退くも、地獄の瀬戸際に、自らを誘い込んだ。
 それでも、自民、公明の両党の助けを借りて、政治生命の命脈の消費税増税は、あと一歩の処まで進めることが出来た。残るは参議院での成立を待つのみ。
 国民の眼には、民主政治下の、「政党政治の醜態」を見せ付けられた。
 混迷の政治をこのまま、いつまで続けるのか。首相自身が迷っているから、政局についてマスコミをはじめ、識者には更に迷いは深い。

人材登用の失敗

 野田政権の執政を達観してみると、首相は敵を作ることを避け続けており、善良な政治家にみえる。一般社会人や企業経営者ならば、それも良き支配者であろう。
 だが、一国の統率者には、国内は元より、周辺国には、それぞれ、利害を伴う競争相手、即ち「敵を多く控え」ている。そのものとの対決は、避ければ負け戦となる。
 争えば勝てないと自覚すれば、その様な重責を負うべきではない。それでも大役を引き受けたならば、堂々と進むべきだ。その戦いを避けるのは善き指導者ではない、「卑怯な将軍」である。而も平和を叫び、善人ぶって居ることは許せない。
 野田首相は、理屈は幾らも在ろうが、身内の相当数を敵に廻して、対立する自民、公明を味方に引き入れたことは、大義名分が無い。
 政治には、政策は大切であるが、それ以上に、理念と大義こそ第一である。
 野田内閣で目立つのは、人材登用の失敗である。
 首相自身に、①政治経験が浅いこと、②党内に於ける支配力が薄いこと、③世界情勢と判断力が幼稚なこと、④それ以上に確たる信念を持ち合わせていないこと。
 それ等が重なって、「最強の内閣」の布陣と本人は豪語していても、僅か半年を経ずして改造を余儀なくされている。
 今日の最大の課題は「デフレ解消」である。それなのに、逆に増税路線に突っ走る野田首相は、まさに経済音痴であり、無智の一語と言うべきであろう。
 まして、緊急の要事と心配される対中国問題では、防衛大臣及び北京大使の任命については、余りにも不適格な「最悪の人材」を配置したと言わねばならない。
 彼等を任命した「人事登用の致命的失敗」であったと断言する。
 歴代日本の内閣に在って、これ程の「不適格な人材登用」をした、かつての政府が在ったであろうか。大体、政権を何と心得ているのか。まさに「劇場政治」そのものと勘違いしている幼稚な政権ではないか。
 いまほど、世界情勢を見渡した、高度の戦略と、立派な日本人として、政治的リーダーシップを発揮する人材が必要な時はない。外交。防衛。財政。教育等々。
 そう考えるとき、野田政権の機能不全を隠さない、「人材登用のお粗末さ」を直視すると。日本の現状に、空恐ろしい不安を覚える。
自主外交の人材を

 内閣も党もバラバラで、首相を取り巻く周りには、首相の考えを実現するため、責任をもって取り組み、党や政府を調整する「力量ある政治家」が見当たらない。
 こちらが頭を低くしていれば、物事がまるく収まると考えるのが外務省の対中国観であった。それはすべての物事が、結果として、中国の思う通りに収まってしまう。 
 ひたすら中国の顔色を窺い、中国の意向に逆らわぬ、「気兼ね外交」を今日まで通して来た。――このような外務省の「御用聞き外交」が顕著な形で体現したのが、今回の丹羽宇一郎在中国日本大使の発言である。
 丹羽氏は尖閣問題に関する質問に対し、故周恩来中国元首相の「和すれば益、争えば害」という言葉を引用している。争えば害と云うが、争いを仕掛けて来たのは、常に中国である、丹羽氏は一体どこの国の大使なのか。
 尖閣諸島を守る第一歩は、まず丹羽大使を更迭することである。既に国会に於いて、各野党代表から厳しく丹羽大使の「非国民的発言」を追及し、更迭を要求している。
 首相も、外相も、大使の発言に対して、政府の方針に反するとして、強く注意した。
 しかし今回の件は、単なる政府の注意で済むことではない。単なる失言ではなく、本人の真意から出た言葉である。
 「日中の衝突は身体を張って阻止する」と題した、文書中での大使自身の発言で、彼は未だ、中国と貿易をしている「商社員のつもり」が根柢に在るとみる。
 大体、中国向けの大商社の社長を、日本国家を代表する全権大使に任命したことが「人物と立場」を考慮しなかった、民主党政権の国益を損なわせた人事である。
 度重なる野田内閣失政の根本には、首相の「任命責任」を問わなければならぬことは、先の防衛相以上の、中国大使任命の失態人事であった。

 首相は今こそ党内融和を打ち捨てて、自身の政策を断行すべき時だ。
 行き詰れば解散して、日本の歩みを、一歩でも二歩でも進める努力をせよ、激しく動く国際社会と、日本の置かれた厳しい状況の前では、極論すれば、民主党の分裂も、さらには消費税増税さえも、ちっぽけなことだ。国家と国民の命運がかかっている。

解散を断行せよ地涌菩薩が待っている

 首相は三年前には、「国民の手の届かないところで、国のトップが変っていく、それは目に余る。総裁が交代するときは、民意を問うことを申し合わせすべきだ」との論文を以前に書いている。さすれば、前言の如く、目下の野田首相は、首相の専権事項の解散権を行使して、存在感を示すべきではないか。
国民の多くは、野田首相の決断、即ち衆議院の解散を期待している。
 首相が解散を決意すれば、民主党は大敗することも覚悟せねばならない。だからといって、何も決められない首相のまま、権力にしがみついていれば日本はどうなる。
 衆議院を解散したからといっても、民主党に代って自民党の旧政権、そのものの再現を期待している訳ではない。野田首相にとっては、進むも地獄、退くも地獄。
 解散を恐れるのは、民主党だけではない、野党の側にも負の危険が多くある。
 野田首相は、「消費税増税と社会保障の一体改革」を宣言して、竹下元首相と共に、消費税増税さえ成立させれば、社会保障その他は意に介さないとみる。
 それは小沢一派にとっては堪え難いことで、民主党分裂の発端となりつつある。
 自民党にとっては、民主党が、この難事(増税案)を切り抜けることに異存はない。
 日本国民は、冷静であり、かつ聡明である。
 政治のみならず、経済、文化の各面に於いても、それなりに、充分の能力を各分野で保持し、かつ発揮している。従って「このまま日本を沈没させないぞ」と云う、全国地方各地から憂国・愛国の声が、沸々と湧き上がりつつある。
 仏教では、これを「地涌の菩薩」と云う。国家の為に、仏の使いとして。
 総選挙によって、地涌の菩薩こそ、各地域で水平線上に頭を出してくれるであろう。
 その人達が、三人、五人の従者を伴って、永田町に押し掛けてくることが想像される。――そこから、  「日本の新しい政治」への再出発が期待されよう。
 明治維新に見る「薩・長・土・肥」の歴史の如く、全国から湧き出でた勇者の群が、既成各政党の中から、或いは平成維新の新勢力も加わって、新しい日本政治の土台が形成されると期待できる。
 日本人は、本質的に先輩の行動を大切にする「古い体質」を維持する、保守的体質を好む平和な民族である。それが「江戸時代」を守り育てて来たことにみられる。
 だが、その一方で、外来の文化や、圧力、脅威が迫る時には、外敵と構えては、異常な反発力と、国内統一に因る抵抗力を発揮する一面が在る。明治維新がそれだ。
云わば、「硬、軟両面を具備した民族」であると信じている。
 既に地涌の菩薩が全国的に控えている。一刻も早く「衆議院を解散」して憂国の志士を迎え入れのため、号砲を発するべく、野田佳彦最後の御奉公と胆に銘じて欲しい。






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