樋泉克夫教授コラム

【知道中国 814回】             一ニ・十・十

 ――いずれ廈門も、いや既に地産覇権の地ですかねえ

 地方都市では、というより地方都市であればあるほどに、街の中央の一等地に異様に大きな政府庁舎を新築し、その周囲を広大な緑地が取り巻いている。日本でもバブル期には役人が税金を湯水のように使って必要以上に贅沢な庁舎を競って建てたものだが・・・。

 もっとも中国の場合、豪華宴会場からバー、カラオケまで備えている地方政府庁舎も珍しくはないというから、無駄遣いの程度は日本の比ではないだろう。加えて歴史的に「昇官発財」「公財私用」という伝統を持つ民族である。幹部になったら位を昇るごとに権力は増し、権力が増した分だけカネを招き寄せる。これが昇官発財。殿サマと越後屋だ。

 エラクなったら、公の資産をネコババしてまで私腹を肥やしても当然視。これが公財私用だ。07年から今年6月までの5年間に66万人の党員を汚職などで処分したというが、氷山のだろう。公財私用も極まれり、である。因みに10年末で党員は8027万人余。

 さて廈門市政府庁舎にもバーやカラオケが備わっているかどうかは迂闊にも聞き漏らしたが、街のど真ん中に威容を誇っていることに変わりなかった。

 庁舎の正面入り口を出て大通りを右手に少し進むと、周囲をグルッと塀に囲まれた広大な建設現場だ。クレーンが動いている。建設資材を積んだ大型トラックが頻りに出入りしている。塀には「全球第三 最佳発展商 擁城市緑肺 詩意無限 鷺島中央 嘉禾路商圏」などと大きな字で麗々しく記し、市の心臓部ながら豊かな緑に抱かれ詩情溢れ、しかも繁華街にも近接という好条件を高らかに唱っている。信和・中央広場(CENTRAL PARK)と名づけられた超高級超高層マンションを建設中だ。

 このプロジェクトを手掛け、自ら「全球第三 最佳発展商(世界第3位の優良不動産デベロッパー)」を名乗っている信和(Sino)集団の親元は、シンガポールの繁華街で知られるオーチャード・ロードにショッピングモールやホテル、マンションなど膨大な高級不動産物件を擁する遠東機構(Far East Organization)だ。遠東機構を一代で築き上げたのが廈門近くの莆田で生まれた故黄廷芳(ウン・テンフォン)で、長男の黄瑞祥(ロバート・ウン)に任せた香港での事業の中軸が信和集団である。

 いまから15年前の香港返還前後から親北京の姿勢を鮮明に打ち出し、以来、香港では繁華街の尖沙咀を中心にショッピングモールやホテルを、郊外ではリゾート型高級マンションを手掛ける。新聞第1面全面を使った派手で積極的な広告戦略が香港では夙に有名だ。

 鼓浪嶼島の見える海岸通りから少し外れたリゾートで世茂海峡大廈(天璽MO SKY MANSION)を建設する世茂(SHIMO)集団を率いる許栄茂も、廈門近くの石獅生まれ。文革期半ばの70年代初頭に香港に現れ、薬屋の店員から身を起こし株式投資、衣料・繊維製造を経て不動産へ。オーストラリア国籍取得後に故郷の石獅にUターンし、いまや北はロシア国境の綏芬河市から北京、湖北、無錫、南京、福州などで事業を展開。この集団のシンボルが、上海の浦東地区で偉容(異様?)を誇る金茂大廈だ。

 中心街のみならず、海岸沿いを車で走って目に付く大型ショッピングモールや高層マンションは、名称から判断して、その多くがフィリピンの華人企業家経営と思われる。

 ところで財産作りの伝統商法に「地産致富」がある。不動産で儲けた泡銭に権力が引き寄せられる。そこで札束で権力と同盟し金儲けに励もう、である。まさに現在の香港がそうだ。やはり廈門の街にも地産致富の臭いがプンプンだが、致富の前にバブルが破裂したら地産致富ならぬ悲惨致貧は必至だ。そこで黄泉路上行(運が尽きたらあの世行き)するだけ。どんな地獄も大躍進当時の飢餓地獄に較べたら屁みたいなものだろう・・・よ。《QED》