樋泉克夫教授コラム

【知道中国 813回】             一ニ・十・初七

 ――どうやら廈門では、新聞は香港並みになったようだ

 廈門の別名は鷺島。総面積が1865平方kmの島だが、そのうち127平方kmが建成区と呼ばれる市街区で、上海の浦東地区の規模には及ばないがオフィスビル、マンション、ショッピングモールなどの超高層ビルが立ち並ぶ。因みに山手線内側は65平方km。

 最新マンションのなかには3層仕立て、つまり上下3階分を貫いて1戸という破天荒に豪華なものまである。1㎡が3万元前後で300㎡超というから1千万元超か。まさに天文学的金額だが、これが売れているというから不思議だ。

 ある業者の店先で「日本では中国の不動産バブル破裂の危険性が危惧されているが」と尋ねると、「日本人が心配するには及ばんよ。稼げる間に稼ぐだけ。中国は広い。全土が一気にダメになるなんてことないよ。あっちがダメでも、こっちがある。まあダメになったところで、大躍進や文革を思い起こせば、何だって耐えられる。不景気なんて屁みたいなものだ。不動産バブルが破裂したところで、飢餓のあまり互いに食い合うこともないだろうし、イデオロギーを掲げて仲間内で殺し合うこともないだろう。だが経済的に豊かになって以降に生まれた若い世代はダメだろうな。ちやほやされて育った一人っ子世代のヤツらはガマンということを知らないからな」と返ってきた。

 「他国の経済のバブル情況を心配するより、この新聞でも見ろよ」と渡されたのは、「臨海 聴風 読両岸」とキャッチコピーの書かれた「海峡導報」という新聞だった。「台湾海峡に臨み、両岸の風を聴き、中台両岸の情況を読もう」という狙いだろう。タプロイド版ながら全108ページ。これさえ読めば、国内・国際情勢から経済・社会・料理・ファッションなど廈門での日常生活に必要なあらゆる情報が過不足なく納められているとのことだ。

 「日本が島を購入するという茶番劇は必ずや徒労に終わる」「敗戦国が戦勝国の領土を不法に占拠するなどという道理はない」と勇ましい文字が躍る記事の下には、数日前に就航した航空母艦の遼寧を記念した金時計と豪華ミニチュア・モデルの紙面半ページ大の広告が見える。「大国化の明白な証拠である中国航空母艦は世界を震撼させる。年を重ねるごとに高価になり、使うほどに値打ちが上がる」との一文には、やはり笑えた。

 国際ニュースでは、自民党に誕生した安倍・石破コンビを「強硬組合」と表現し、「中日関係は厳しい情況に陥る」と報じている。台湾関連では、尖閣海域に侵入した台湾漁民を馬英九総統が激励したニュースを大きく扱っているが、「台湾漁民保釣発起人」の弁として「われらの世代で釣魚島を失ったら、ご先祖様に申し訳が立たない」と伝える。その下の記事の見出しは、「日本と対峙した際の水圧は弱すぎなかったか?」「台湾当局は事前に日本側との打ち合わせを否定」と、台湾側警備当局の日本側への弱腰対応を揶揄していた。

 改めて全108ページを繰ってみると全面広告が45ページあり、広告面を総計すると約70ページ分を占めている。つまり計算上では半数以上が広告である。内容多くがは、中秋節と国慶節の双節にぶつけた「双節狂歓」と銘打ったバーゲンセール。中秋節だから月餅の老舗もあるが、目に付くのは家電、食品、高級ワイン、日用雑貨、家具調度、貴金属など。ここで注目は、圧倒的に数の多い不動産広告だろう。

 新聞の第一面全面を使った不動産広告など日本では考えられないが、香港では当たり前。どうやら廈門も、新聞と不動産広告の関係は香港並みになったようだ。一面から登場するのは、香港と中国を代表する信和集団、世茂集団の不動産デベロッパー2社である。《QED》