樋泉克夫教授コラム

【知道中国 810回】             一ニ・十・初一

 ――そ~れ、それそれ、お祭りだ~ッ

 9月30日の中秋節からはじまって10月1日の国慶節を含む前後8日間の連休を「双節暇日」と名づけ、中国は国を挙げての“お祭り騒ぎ“に突入する。そこで直前の9月28日、福建省にあって台湾との往来の重要な窓口である廈門にやってきた。なんせ廈門の東の洋上わずか6kmには、台湾側の金門島が浮かんでいる。

 成田からの機内は、想像を遥かに超えてガラガラなうえにガラガラ。中国人客も極くわずか。廈門でも大問題になっているかと思いきや、予想に違わず反日は「は」の字も感じられない。観光業者に尋ねると日本からの観光客のキャンセルが続き、10、11月は開店休業状態だという。「アホなことをしてくれる」と苦々しげに語ってくれた。

 それでも街中に反日運動の“片鱗”でもあろうかと注意してみるたが、目に付くのは不動産と中秋節につきものの月餅、それに双節暇日に絡めた観光旅行の広告のみ。やっと見つけた「釣魚島は我が神聖な領土」のポスターは1m四方ほどの大きさ。豪壮な廈門市政府庁舎横の小道にヒッソリと置かれていた。

 29日夜、ホテルでテレビを点けると「一虎一席談」という討論番組を放送していた。こちらは反日の大合唱だ。司会者を間に、日本への強硬意見に熱弁を振るう2人と、慎重姿勢を説く2人。その周囲を100人ほどの若者中心の視聴者が囲む。

 「中国経済を考えると、矢張り日本との関係は欠かせない」と慎重論者が口にすると、「経済力が今では考えられないほどに弱かった時ですら、中国側は毅然と対応したではないか」との反論が、会場の若者からすかさず返ってくる。「日本が打つ手の先の先を読んで、事を荒立てずに慎重に対応すべきだ」という意見に対しては、27日に就航した中国発の航空母艦の「遼寧」を挙げて、「鄧小平が掲げた『韜光養晦(能力を蓄え実力を隠す)』といった外交方針は、もはや時代遅れになった。なぜ航空母艦を使わないんだ。遼寧があるじゃないか。軍事力で日本を締め上げろ」と、若者は勇ましい。「日本の経済力なんてタカが知れている。経済制裁を実施せよ」と続く。ともかく若者は勇猛果敢にまくしたてる。

 やおら立った20台半ばと思える女性は、「在米生活14年になりますが、居てもたっても居られず帰国しました。私は血を流すことを厭わない。若者こそ断固として立ち上がるべきだ」と“血涙”を振り絞る。これに感動したのだろう。強硬派のジイさんが「どれほどの同胞が日本軍に殺されたのか。この事実を忘れるな。一切の妥協はない」と。

 番組は続いていたが内容は知れたもの。テレビを消して寝る。翌朝、再びテレビを点けると6時のニュースだ。アナウンサーは「30日午前零時を期して、一般乗用車の高速道路料金は全国で無料になります」と伝え、北京近郊を中心に各地の高速道路料金所からの中継が続く。北京から五台山に向かう若者にマイクを向けると、「この料金所、エッ、オレが第1号かい。運気好(ラッキー)。やった~ッ」とVサイン。次いで同乗者と握手だ。

 中継はガソリンスタンドへ。マイクを向けられた店長は、「今日の午後と1日は終日、給油客で大忙しの予定です」。次はごった返す空港から。「国内主要路線は90%の予約で埋まっています。日本旅行を断念し、シンガポールやタイに切り替える客も多いようです」とマイクを持ったレポーターの横を、多くの客がVサインしながら笑顔で通り過ぎる。

 反日の季節は過ぎたのか。とにもかくにも落ち着かない双節暇日が始まった。《QED》