樋泉克夫教授コラム

【知道中国 797回】                  二〇一ニ・八・三一

 ――北京が提供する“タダ飯”には呉々も注意せよ

 今年初め、胡錦濤は理論誌『求是』に「国際的な敵対勢力は我が国に対し、欧米化と与論分断工作を画策している」といった趣旨の主張を掲載しているが、西側メディアの“中国歪曲報道”に対抗するためと称し、ここ数年、北京は新華社(通信社)、CCTC=中国中央電視台(テレビ)、「人民日報」(新聞)など官製メディアの“走出去(海外に飛び出せ)工作”を精力的に推し進めている。

 中国語メディアの海外での読者・視聴者は2億人余と見られるが、中国語以外に日本語、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語などで「中国的視点」と自称する自己チュー極まりない報道を繰り返す。目下のところの標的は資金力の乏しいアフリカ、ことに東アフリカの伝統的親米国家といわれているケニアのようだ。いわばソフトパワーを駆使し、中国的に潤色された報道をケニアから東アフリカ、延いてはアフリカ全体に広げ中国の影響力拡大をさせ、資源漁りを有利に展開しようという魂胆はミエミエだ。
香港の「明報」(8月28日付け)は、ケニアの「The Daily Nation」の「盲人でなければ、中国メディアが大挙してケニアに押し寄せていることが見て取れるだろう」との報道を引用しながら、北京が70億ドルを投じて宣伝戦を展開していることを伝えている。だが、現実は必ずしも狙い通りには進んでないらしい。衛星放送にかぎっても、ケニアでは中国のCRI(中国国際広播電台)よりCNNやBBCの方が視聴率が高い。加えてスーダンのような中国が一貫して強く支持する独裁政権寄りのニュースを流すよう求められることに、ケニアのメディア関係者が抵抗を見せているとのことだ。

 「明報」が伝える「ケニア人はタダの昼飯、ことに中国人がご馳走する昼飯は疑ってかかる」とのケニアのメディア関係者のことばからは、彼らの抵抗振り、いいかえれば中国の苦戦振りも垣間見えてくる。また同紙が「ニューヨーク・タイムス」を引用して伝えるには、エチオピア政府は中国から15億ドルの提供を受け、テレビ、ラジオ、ネットなどの監視・妨害技術を確立しつつあるとのことだが、中国は政府に不都合な言論を封殺する電子技術までをも“走出去(海外に飛び出させよう)”というのだから、とんだ技術移転だ。

 かつて中国は、世界の共産主義革命運動の最高指導者は毛沢東だと声高に叫び、資本主義、帝国主義に虐げられた第三世界を救え。世界の民族解放闘争を支援せよと、「革命の輸出」に腐心し、各国の“民族解放組織”に盛んに武器・資金・ゲリラ闘争技術を与えていた。世界中を「百戦百勝」の毛沢東思想で染め上げてしまえとばかりに、百数十種類に及ぶ世界の主要なことばで『毛主席語録』を翻訳し、世界中にバラ撒いていた。

 当時、アフリカ工作の拠点はケニアと同じく東部アフリカのタンザニアとザンビアだった。両国を結ぶタンザン鉄道の建設に技術者と労働者を大量動員し、旧満鉄のレールを引っ剥がして持っていったように記憶する。アフリカにおける毛沢東革命の拠点を夢見たザンビアでは、鉱山漁りの強欲中国人に対し反発が募り、いまでは「中国追放」を掲げる野党の愛国戦線が都市部で影響力を伸ばし、アフリカで最も平和な国に変身したそうな。

 第三世界向けに翻訳・出版された夥しい数の『毛主席語録』など、今風に表現するならソフトパワーの“先駆”だろうが、さて費用対効果の程は、つまり革命のソロバン勘定は如何だったのか。じつは毛の著作はタダではなく、莫大な印税は当然のように著者である毛沢東の個人口座に振り込まれた。つまり著作を刷るほどに毛沢東の懐が潤うというカラクリだったとか。どうやら革命商売は相当に儲かったらしい・・・万事商売・繁盛第一。《QED》