樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 633回】           一一・九・初五

      ――「野田佳彦は富士山のように親しむことができるのか?」

                 
 8月31日に「日本新首相の対華政策は楽観視できない」と題する社説を掲げたタイ華字紙の「世界日報」は、9月2日には「野田佳彦は富士山のように親しむことができるのか?」と題する社説を掲げ、野田新政権への見方を示した。

 先ず社説は、韓国メディアは野田政権の成立に「非常に焦り、(野田を)民主党の右派だ」と称していると説き起こし、「菅政権発足に当たり野田は財務大臣ではなく文部科学大臣を要望していた。それというのも、第2次大戦で日本は一貫して間違っていなかった。戦犯を弁護し、刑に服した以上、戦争犯罪という罪は消滅した。これが近代法の精神であり、だから首相は靖国神社に参拝すべきだ――以上が野田の一貫した考えである」と、韓国のメディアが「非常に焦り、(野田を)民主党の右派だ」と糾弾する背景を説明している。

 次いで社説は領土問題に転ずる。野田は「領土問題においても強硬派」であり、「尖閣(釣魚島)は日本の領土」という国会決議を推進し、今次代表選に際しても「日米同盟は最大の財産であり、日本外交の基軸だ」というスローガンを叫んだ。だが「ここで銘記しておくべきは、野田は軍人家庭の出身であり凡夫ではないということだ。早稲田大学政経学部政治学科を卒業し、財務大臣を担当しソロバンの弾き方も知っている。だから、あたら国家を窮地に陥らせるようなことはしないはずだ」とする。

 最近の5年で6人の首相という日本の短命政権に言及し、野田もまた政権に就いた以上は「野心は沸々を沸き立ち長期化を目指すだろうが」、そのカギは「複雑な日本政界における支点を掴むか否かにある」とするが、ここでいる「支点」の具体的説明はない。

 外交・安全保障問題に関しては華字紙であればこそ、当然のことだが北京の政策を全面的に支持しつつ論を進める。アメリカも太平洋における勢力拡張に努めているが、「中国もまたこの地域の大国であり、当然のようにこの地域のおける核心的利益の擁護に努める。両国は共に勢力を膨張させてきたが、その過程でも相互均衡に努め、不戦不和の局面を維持してきた」。「両大国間に在って日本が小であることに耐えられず、アメリカの力を背景に中日間における確執を解決しようとするなら、日本はしっぺ返しを喰らうだろう。中国は一貫して和平政策であり戦争を起こす意志はない。軍事費は増額しているとはいえは飽くまでも防衛上の措置であり、他国を侵犯する意図はなく、日本の首相として中国と協調し、この地域の協力と発展に努めるべきだ」とし、「日本の新首相」に対し、尖閣問題と絡めて「アメリカの遠い水では近くの火を消火することは出来ない」と“忠告”を忘れない。

 知名度はゼロの彼が首相の座に長く留まりたいなら「富士山のように親しみ易く」振る舞い、「一般民衆の立場で発想し、極右思想を放棄し、中庸の道を歩み、日本人に安楽な生活を過ごさせるようにすべきだ」と“教訓”を垂れている。

 最後に、小澤対反小澤の権力闘争において「漁夫の利」を得た野田が首相就任後に「大右派になることはなかろう。彼を取り巻く情況に応じて現実的に対応すべきだ」とした後、「鳩山由紀夫と菅直人は必ずしも親中派・知中派というわけではなかったようだ。というのも彼らの首相就任後、アメリカは西太平洋で大規模な軍事演習を実施したが、彼らは唯々諾々と従ったではないか」と、奇妙な形で鳩山元・菅前の両民主党前政権を突き放した。

 手取り足取りゴ親切といえないこともないが、そこに彼らの底意が見て取れる。《QED》