樋泉克夫教授コラム

~川柳~
《容国団 吃飯問題 最要緊》⇒《3年の 地獄の釜の 蓋が開く》
*容国団の卓球世界チャンピオンに沸き返るも、全土は3年間の飢餓地獄に突入する。この3年間を当局は、80年代までは「3年間の自然災害」と”自己弁護”し、後に「3年間の困難期」と誤魔化す。現在は「3年間の大飢饉」と糾弾する研究者も

  【知道中国 622回】            一一・八・二〇

      ――おとぎ話で階級闘争教育ですか・・・悲惨で滑稽ですね

      『大林和小林』(張天翼 中国少年児童出版社 1978年)

 なんとも摩訶不思議なおとぎ話である。
年老いた貧しい農民夫婦に念願叶ってやっと子どもが授かった。しかも男の双子。小躍りした夫婦は青々と茂る林に因んで兄を大林、弟を小林と名づける。貧しくも心温まる家庭ですくすくと育つが、10年ほどが過ぎると両親は亡くなってしまう。「家にはなにもない。働きに出るんだよ」との父親の遺言に従って、兄弟はボロの衣服、粗末な茶碗など僅かに遺された身の回りの品を袋に詰めて、家を後にした。

 当てもない旅路。哀しさとひもじさにメソメソと泣くばかりの弟に向かって、「いまにみていろ。カネ持ちになってみせるぞ。カネさえあれば、食べ放題の着放題。そのうえ、汗水流す必要なし」。すると弟は、「貧乏だった父ちゃんは、『生真面目に働け。田畑がありさえすれば、それに越したことはない』っていってたじゃないか」と反対するが、兄は大声で「貧乏人なんてクソ面白くねえ。貧乏人なんて真っ平ゴメンだ」 

 その時、黒い小山のような化け物が現れ「お前らを喰べちゃうぞ」。驚いた兄弟は、別々の方角に逃げ出す。かくて2人は互いを見失って、別々の人生を歩くこととなる。
 弟は犬と狐に騙され、ある工場に売り飛ばされ、過酷な労働の日々。だが、仲間と決起して工場主を殺し、奴隷の生活を強いられていた人々を解放し、工場を逃げ出す。親切な鉄道労働者に助けられ、機関士修行に励むことになる。

 一方の兄は詐欺師の狸と知り合い、子どもを欲しがっていた国一番の大金持ちを騙して息子として転がり込む。念願の食べ放題の着放題。そのうえに甘やかされ放題で我が侭のかぎり。身の回りの世話をする200人の使用人は、彼のいうまま。「1+1=7」と答えても「大正解!」。なにもいわなくても考えなくても、使用人が全部やってくれる。自分のすることといえば食べて太ることだけ。やがて大金持ちは国王と相談し、超肥満の大林を1人娘の王女と結婚させようとする。膨大な財産と未来の国王の椅子を取引したわけだ。

 結婚式を前にしたある日のこと。大金持ちは、魔法が解けて卵からヒトに戻った12人の男女の労働者によって、「お前はオレたちに見覚えがあるか。死ぬほど働かされ、あわや喰べられそうになったんだ。クタバレ、このバケモノ」と、斬殺されてしまう。
莫大な財産をそっくり引き継いだ大林は数十輌の豪華客車を連ねて結婚式を祝うべく海浜の超高級別荘地に向かおうとする。飢餓に苦しむ海浜の人々を救おうと支援食糧を運んでくれという人々の願いを拒絶し、大林は発車を命令した。だが、機関士は運転を拒否。その機関士が小林だ。小林は命令違反の罪で仲間と共に獄舎に繋がれるが、やがて多くの労働者・農民や知識人の支援を受け釈放され、金持ち打倒・王国打倒の闘いに決起する。

 大林ら一行の乗った列車は動き出すが、風に飛ばされて海へ。鯨に呑み込まれながらも、大林は黄金の島に辿り着く。黄金の凡てが大林のものになるが、その島には人が生きていくために必要な米も野菜も緑も水もない。かくて大林は黄金に埋もれて死んでゆく。

 これは49年の建国以前に書かれたとか。著者は「旧社会統治階級の暗愚・無恥ぶりと労働者を圧殺する残酷な姿を辛辣な風刺によって暴露し、同時に光明を求めて不屈な闘いを進める労働者の姿を描き出そうとした」(「内容提要」)とのことだが、じつはストーリー展開もキャラクターも過度に陳腐な革命的勧善懲悪物語。革命的にツマラナイ。《QED》