樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《来照相 文盲戦士 高玉宝》⇒《文盲の 一掃掲げ デタラメが》
*52年5月に開始された掃盲(文盲一掃)運動において、文盲作家(?)が現れる。

  【知道中国 591回】            一一・六・念二

     ――慢性金満強欲過多症治療に針麻酔は・・・効かないだろうな

     『針刺麻酔』(《針刺麻酔》編写小組 上海人民出版社 1972年)
  
 「中国の医薬学は偉大な宝庫である。発掘に努め、水準を高めるべきだ」との毛沢東の指示の下、文革当時に大いに持て囃された医療が「はだしの医者」と「針麻酔」。この本は、針麻酔に関する詳細な技術書である。300頁を超える大部な本には、経絡系統や穴(ツボ)の場所を詳細に記した大きな人体図や施術の模様を描いた多数のイラストが示されており、それはそれで興味深いのだが、医学専門書だけあって当然のように専門用語が多用されていて、面白さが半減することは間違いない。

 「前言」に拠れば、針麻酔は冒頭に記した毛沢東の指示を実践して生み出すことに成功した新しい医療技術で、「プロレタリア文化大革命以来、格段の発展を遂げ、各地における大量の臨床実権と科学実験を経て数多くの経験を積み重ねた。目下、針麻酔技術は県、人民公社、工場や鉱山などの基層医療機関でも広く行われている」。「こういった新しい情況と各地関係者の切実なる要望に応ずるべく」、「衛生部の委託を受け、上海第一医学院、上海第二医学院、上海師範大学上海生理研究所、上海中医研究所、上海第一結核病院などの6ヶ所の機関によって」、この本が執筆された。ということは、執筆には当時の上海における最高の医療スタッフが参加したということだろう。

 だが「専」より「紅」、つまり専門知識・技術(=「専」)より毛沢東思想に基づく政治意識(=「紅」)が重視された当時の基準で言えば、やはり「最高の医療スタッフ」は毛沢東思想原理主義者ということになろうか。ならば医療技術専門書としては些か、いや大いにアブナイといわざるをえない。
 毛沢東の指示によって改良を加えられた中国伝統が1950年代末から60年代初にかけて全国で広く行われるようになるや、「劉少奇の類のペテン師は毛主席のプロレタリア階級医療衛生路線に徹底して反対し、中国伝統医学を全面的に否定する民族虚無主義の立場に立った。針麻酔も例外ではなかった。彼らは針麻酔を支持しないばかりか、ありとあらゆる難クセをつけて針麻酔は『科学ではない』『実用価値なし』と攻撃した」そうだ。

 ところが、である。「プロレタリア文化大革命の偉大なる勝利は、我が国社会生産の飛躍的発展を推進し、針麻酔もまた新たなる生命を獲得したのだ。広範な医療関係者は(中略)劉少奇の反革命修正主義路線を批判し、路線闘争の覚悟を日々高め、針麻酔工作を、毛主席革命路線を断固として防衛する高いレベルにまで押し上げ、針麻酔を新しい段階にまで発展させ、新たなる実績を獲得した」。かくして、全国で行われた針麻酔手術は文革前の8年間で1万例に満たなかったが、文化大革命以来、各地で行われた針麻酔手術は既に40万例を超えた」そうだ。

 この実績は、「針麻酔は毛主席のプロレタリア階級医療衛生路線が育まれることで生まれた『新生事物』であり、毛主席の革命路線を貫徹することによってのみ針麻酔工作が発展可能となることを証明している」。かくて「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想を真剣に学び、唯物論と弁証法を把握し、劉少奇の類のペテン師が撒き散らした唯心論と形而上学を綺麗サッパリと拭い去り、(中略)医学科学と生物科学の一層の飛躍を勝ち取れ」となる。
現在の金満中国で針麻酔による手術が行われているのか。ゴ教示願えませんか。《QED》