【知道中国 475回】        一〇・十一・初四

      ――自己暗示、効果抜群、傍迷惑

      『鄧小平語録』(藍鉅雄編輯 次文化堂出版 1995年)

 鄧小平の有名な「白い猫でも黒い猫でも、ネズミを捕まえる猫がいい猫だ」を冒頭に配したこの本は、香港で出版されている。編者の藍鉅雄については全く不明だが、彼は「前言」で、「中国の卓越したプロレタリア階級の革命家、政治家、軍事家、中国の改革開放と現代化建設の総設計師」であり、「現代中国の最も傑出した政治指導者」である鄧小平の「1942年から92年の50年間に各時期に行った講話の精華を収録したもの。読者の鄧小平思想認識を大いに益することになるだろう」と記す。

 「実用編」「改革編」「人生編」「真情編」「香港編」の5つの部分に分けられたこの本が果たして「読者の鄧小平思想認識を大いに益する」かどうかは不明だが、ともかくも目についたものを拾い、時系列に沿って並べてみた。(カッコ内は発言された年月)

■情況が一新されれば誰もが気分が晴れ、みんなの心が昂揚すれば仕事は万事順調に進む。苦境に在れば仕事は滞りがち。だが、こういう時にこそ仕事に励み、細心の配慮をすべきものだ。(61年10月)

■いま我われが確信を失っていることが危険なのだ。だから困難に遭遇しても打開する方法を考え出せず、果断に動けない。認識が到らないから、対応の遅れを免れない。なんとか気づいたところで、やはり対応しない。このようにだらだら時間を過ごしていれば、ダメになることは明らかだ。(62年5月)

■真剣になれ、真面目に話せ、誠心誠意で仕事をしろ。これが実事求是だ。(77年7月)

■我われが断固として定めた原則は、肝っ玉を大きく歩みは着実に、である。肝っ玉を大きくとは迷うことなく真っ直ぐに進むことであり、歩みは着実にとは問題を見つけたら直ちに改めることだ。(85年4月)

■具体的に問題を処理する場合は細心であれ。必要な時に応じて経験を総括せよ。小さな誤りは避けられないが、大きな誤りを犯すことを避けなければならない。(87年4月)

■とどのつまり仲間にはリスクを恐れるな、肝っ玉をもっと大きくすべきだ、といいたい。前門の狼、後門の虎を恐れていたら、立ち行かなくなるのは必定だ。(88年5月)

■完全無欠の方針、一点一画の間違いのない完璧な方法などというものはあるわけがない。目の前に立ち塞がっているのは凡て新しい事物であり、遭遇したこともない問題だ。自らの創造力を頼りに経験を重ねるしかない。(88年5月)

■より大きなリスクが起こるという前提で対策を準備しておけば、どんなリスクも怖くはない。まさか、天が落ちてくることなんぞ起こりはしないんだから。(88年6月)

■誤りを発見したら、直ちに正せ。誤魔化すな。先送りするな。(89年3月)

■リスクを恐れるな。すでに我われにはリスクを引き受ける能力が備わっているではないか。(90年12月)

 ――これを素直に読めば、人生を横紙破りで生きてきた叩上げワンマン創業社長が語る“経営哲学”と見紛うばかり。どうやら「現代中国の最も傑出した政治指導者」で「卓越したプロレタリア階級の革命家、政治家、軍事家」は、また優れた企業経営者ともいえそうだ。でなければ、社会主義市場経済体制なんて“奇手”を思いつける筈がない。  《QED》