【知道中国 460回】       一〇・十・初五

     ――新しい時代の、新しい「南巡講話」

 天安門事件の後遺症も癒え、「民主派」弾圧に対する欧米各国からの批判が息切れした頃合を見透かしたかのように、92年1月から2月にかけ鄧小平は武昌、深圳、珠海、上海など南方諸都市を巡回・視察し、迷うことなく大胆に市場経済化を推し進めよと語った。この「南巡講話」を機に、中国が一気呵成に市場経済への道を突っ走りはじめたことは、もはや周知のこと。「カネ儲けのどこが悪い。尻込みするな。とっととカネ儲けに励め。毛沢東政治の迷いから目を覚ませ」と、鄧小平がハッパを掛けたわけだ。

 その時から18年が過ぎた今(2010)年9月6日、鄧小平に縁のある深圳で「深圳経済特区建立三十周年慶祝大会(1980-2010)」が開かれている。その模様は内外にテレビ中継されたが、会場には様々な制服や色鮮やかな民族衣装も見られた。全国人民が挙げて経済特区建立30周年を祝っているという演出を狙ったに違いない。このような“全国各界各層の代表”を前に、胡錦濤国家主席は深圳を経済特区と定め大胆な経済改革を進めた鄧小平の大英断を絶賛し、深圳モデルが中国市場全体を牽引したことを高く評価した。

 お定まりの鄧小平賛辞が終わると、胡の講演はいよいよ核心へと移る。

 「複雑に錯綜する国際情勢と大きく重い改革と安定的発展という任務に立ち向かい、変革と真正面から向き合い、新しい試みに邁進し、旧い考えに固まらず、停滞することなく、リスクを懼れず、あらゆる雑音に囚われることなく、改革開放を推進し社会主義現代化建設に引き続き勇猛邁進しよう」と呼び掛け、①経済発展方式を資源節約・環境保護型に素早く変換せよ。②海外資本と技術の「引進来(呼び込む)」と中国の資本と人材の「走出去(飛び出す)」という双方向の動きを融合させ、開放地域を拡大し、開放の質を向上させ、経済の全球化という条件下で国際的な経済協力と競争という新しい環境に参画せよ。③引き続き物質文明と精神文明の調和の道を探れ。④企業、家庭、地域の和諧を進め、誰もが社会和諧の責任を自覚し享受する局面を創り出せ。⑤党組織の創造力、求心力、戦闘力を高め、党に拠る科学化の水準を絶え間なく高めよ――と、深圳経済特区の持続的発展を狙っての5項目の提言をしたのだ。

 そして、「経済特区は、より一層全国的な大局観に服務する意識を保持し、西部大開発と東北地区などの旧来からの工業地区振興、さらには中部地区崛起などの地域発展戦略の実施を積極的に支持し、カウンターパート地区への支援と共助工作に力点を置き、香港、マカオ、台湾地区との経済合作を強化し、香港とマカオの長期繁栄と安定を保持し両岸関係の平和的発展にさらなる作用を発揮しなければならない」と語りかけた。

 以上要するに、経済発展が進む深圳を改革が立ち遅れた国内各地に対する牽引車とするだけでなく、新たに深圳に中国と「香港、マカオ、台湾の同胞と海外僑胞」とを結ぶ“要石”としての任務を与えようというのだ。いいかえるなら鄧小平の唱えた経済発展モデルとしての役割もさることながら、中国の「長期繁栄と安定」のために今後は深圳をテコにして「香港、マカオ、台湾の同胞と海外僑胞」も積極的に巻き込むべし、である。

 胡は深圳を結節点とする中国と「香港、マカオ、台湾の同胞と海外僑胞」の紐帯の、より一層の強化を目指す。ならば尖閣をめぐる今回の妄動の数々も、胡の掲げる新たなる構想との関連で捉え直すべきだ。彼らは「大中華圏」構築への布石を打ちはじめたのだ。  《QED》