【知道中国 438回】      一〇・八・念六

     ――これが「泛北部湾経済合作区」の狙いだ・・・

 中国南部の広西チュワン族自治区沿岸、広東省の雷州半島、海南省、ヴェトナム北部沿岸に囲まれ南シナ海に繋がる広大な海域がある。この北部湾を囲む地域や国を一体化し経済圏としようという「泛北部湾経済合作区」構想が、2006年前後から浮かんできた。開放以来の中国経済を牽引してきた珠江三角洲、長江三角洲、環渤海湾に続く「第4の経済圏」として国家プロジェクトにすべしという考えが、2007年3月の全国人代・政協を機に広西当局によって提示された。

 こういった動きを捉え、胡錦濤主席は「広西沿海の発展を新たな局面とすべし」、温家宝首相は「泛北部湾経済合作推進という大きな文章を書き上げよ」と積極支持を表明する。じつは06年開始の「十一五(第11次5ヵ年計画)」で泛北部湾経済区を西部大開発計画における3つの重点開発目標の1つに繰り入れるなど総事業費1000億元の広西鉄道整備・建設計画が承認されていた。加えるに、北部湾を囲む両国四方(ヴェトナム北部沿海と中国の広西、広東、海南、北部湾地区)のみならず、近隣諸国をも包括した泛北部湾経済合作区に拡大すべきとの方向が打ち出されたのだ。

 かくして、「中国とASEANとの次地域(サブリージョナル)の合作も、一面的な『陸上合作』から双方向性を多元的に備えた『海陸合作』の要となる」(劉奇葆・広西自治区党委員会書記)という方向性が打ち出され、「泛北部湾経済合作論壇」と名づけられた国際会議が動き出すこととなった。参加国は中国に加えヴェトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、タイのASEAN7ヶ国である。

 5回目となった今(10)年の泛北部湾経済合作論壇は8月12、13日、かつて中越懲罰戦争の際のヴェトナム侵攻最前線基地であり、いまや中国とASEANの接点として重要な役割を担う南寧で開催されたが、同論壇開催に歩調を合わせたかのように、中国鉄道部は南寧・シンガポール間の鉄道建設を積極的に推進することを表明した。

 鉄道部経済企画研究院の林仲洪副院長は、南寧・シンガポール線は南寧から南下し憑祥で国境を越えてハノイへ。その後はホーチミン、プノンペン、バンコク、クアラルンプールと4カ国を経由してシンガポールまでの全長5000キロ。このうち中国側新設区間は200キロ弱。ホーチミンからプノンペン経由でタイ国内線に接続する区間で整備・新設を要する距離が435キロ前後。またハノイから枝分かれしてヴィエンチャン、バンコクを経由してシンガポールと結ぶ予定もある。以上の2路線完成後、中国側の貴州、広西、湖南、広東の各省の既存路線と接続させることで、中国南部と「中南半島(=インドシナ+東南アジア大陸部)」とを一体化させた物流ネットワークが動き出す――と主張する。

 伝えられるところでは、中国・ASEAN間の物流は陸路に限っても年平均13%増で2020年には8860万トン(うち、4680万トンが中国からの輸出分)に、貿易総額は年平均11%の伸びをみせ8000億ドルに達するというのが、中国側の予想のようだ。

 じつは09年末、中国政府は「より積極的に泛北部湾経済合作を支持し、合作の基盤と機構を創設し、南寧・シンガポール経済回廊を建設する」との路線を打ち出していた。つまり泛北部湾経済合作論壇は中国による中国のためのこの地域(インドシナ+東南アジア大陸部)改造へ向けた国際的仕掛けであり、ASEAN抱え込み策ということだろう。  《QED》