【知道中国 389回】 一〇・五・仲一
――「北満洲の国境(くにざかい)」は全中国の縮図だった

    愛国主義教育基地探訪(4-02)

 空路で北京から黒河空港へ。流石に国境近くの空港だけあってロシア人客も目立つ。
もっとも、何の変哲もない田舎のチッポケな空港ターミナル・ビルを物珍しげにデジカメで写しまくる日本人の方が目立っていたのかも知れない。

 荷物を受け取り係官の横を通り空港の外へ。ふと横を見るとロシア人女性が係官に盛んに抗議している。あるいは彼女は運び屋で、これから別室での荷物検査が待っているのか。だが、蛇のみちはヘビ、いや魚心あれば水心ともいうではないか。おそらく国境の街では日常的に繰り返されているありふれた光景なのだろう。

 空港ターミナルにA4の大きさの白い表紙の冊子が置かれていた。表紙には鮮やかな真紅の文字で『黒河市人民政府公報 2010 第1期(総第12期)』と。目次には「宣伝政策 指導工作 関注民生 服務社会」と漢字4文字句で公報の目的が記されている。巻頭を飾るのは市長の掲げる「五明確・三要」なる施政方針だ。毛沢東時代以来、上は北京の中央政府から下は地方政府まで指導者・幹部と称せられる人々は数字を入れた政治的スローガンを掲げ、人民を指導するのがオ好きなようだが、これまた中国で上に立つ人々に共通する“性癖”とでもいっておこうか。

 ところで、肝心の「五明確・三要」だが、それを要約すると、①建設目標、②建設任務、③建設責任、④完成期限、⑤賞罰措置――を明確にし、①建設(計画から施工まで)全般における公正性と透明性の確保。②建設過程での無駄排除へ向けての関連各部門の連携強化。③建設に関するムダな資金運用を排除するための金融部門との連携の確立――。この方針を素直に裏読みすると、黒河市ですら、政府各部門で公金をジャブジャブ使った無駄で気儘な建設が横行しているということ。いいかえるなら高度経済成長の波は国境の街を潤し、野放図な建設ラッシュを巻き起こし、公金が右から左へと奔流のように流れ、幹部や業者の懐を大いに潤していることだろう。これを持てる者の贅沢な悩み、というのか。

 市長の姿勢やヨシといいたいところだが、「上に政策あれば下に対策あり」の社会である。これまで、この種のスローガンがそうであったように、この「五明確・三要」もまた、市長はいいっ放し、市長以外は聞きっ放しで終わる可能性は大だ。

 巻頭言の次に置かれたのは、「在全市金融機構表彰大会的講話」。つまり今年2月3日に行われた黒河市の金融機関の表彰大会における市長の講話の全文だ。些か長文だが、簡単に骨子を挙げれば、①全市の経済発展と金融機関の有機的連携を強化し、②国全体の経済情況を把握し、③金融機関の地方経済発展に対する貢献度を増し、④黒河市の信用を高めて公正・公平な建設を目指し、⑤金融機関に対する関心と支持を大いに持つべきだ――。

 そして「銀行と企業の対接会(マッチング)を定期的に開催し、銀行と企業の合作のための基盤を作り、銀行と企業の相互信頼を促進し、三方共贏を実現させる」とした後、最後を「同志諸君、我われの共同の努力を通じ相互の支持・協力を確立し、新しいスタイルの政府・銀行・企業の合作関係の発展を互いに模索し、黒河の発展のために更なる貢献を成し遂げようではないか」と結ぶ。「三方共贏」を正確に訳するなら、政府と銀行と企業とでテキトウにヨロシクやりましょうや、である。やれやれ、楽しみな旅となりそうだ。《待続》  《QED》