知道中国 184回】〇八・九・初三
「毒入り餃子」
―「だって、お前ら、単純明快、底まで分かるからだよ」―

 8月最後の日曜日の朝、なにげなくテレビの報道番組をみた。テーマは毒入り餃子問題だが、中国政府が前言を翻して「中国の製造過程で毒が混入。容疑者の臨時工員を取り調べ中」と日本側に伝えたとの報道について、ある外交評論家が「個人的に日本の捜査当局トップに問い質したら中国側の謀略臭い」と息巻いていた。

 昨年末に千葉県で発生した事案を皮切りに全国各地で発覚した毒入り餃子事件だが、日本側捜査当局が厳格な科学捜査によって製造過程で猛毒のメタミドポス混入の可能性大と断じても、中国側は認めない。やれ日本側で混入とか、包装紙の上からでも毒物混入は可能だとかの“奇想天外”な弁明を、しかも驚くべきことに胸を張って繰り返してきた。この間、日本側の厚生労働省の係官が現地調査を実施したが、「製造工場は清潔に管理されていた」で終わり。それもそうだろう。事件発生から一定の時間が経過しているのだから、相手は現場保存をしておくようなマヌケではない。証拠隠滅は明白。だが、日本側に捜査権がない。だから相手の掌で躍るしかない。そんなことは最初から判っていたはず。

 中国側としてはお茶を濁して迷宮入りを狙ったのだろうが、天網恢恢疎にして漏らさず。製造工場に厳重保管しておくべき毒入り餃子が外部に流失し(関係者が小遣い稼ぎに売り飛ばしたに違いない)、誰かが食べて被害者がでてしまった。中国側は隠し通せないとでも思ったのだろう。

 7月の洞爺湖サミット前後に中国で被害発生の事実を日本政府に伝えたとのことだが、日本政府が何を慮ったのか、その事実を公表せず。それが新聞にすっぱ抜かれると「中国側が公表を差し控えてくれといったから」と苦しいいい訳だ。この時点で福田政権は日本国民と北京政府に対して二重のハンディーを背負い込む。自国民の安全より北京の面子を優先するのかと国民が正論を掲げ糾弾したら、どう申し開きをしたのか。そんな依頼をした覚えはないと中国側に尻を捲くられた場合、どんな対応をみせたのだ。

 毒入り餃子事件に関する一連の経過を振り返ってみると、単純な食品安全事件と看做した日本側に対し、北京は一貫して政治・外交問題として扱ってきた。だからこそ餃子程度が「中国側の謀略臭い」レベルにまで“大化け”してしまう。今こそ日本人は、食品安全事件ですら高度な政治・外交問題に摩り替える中国人の老獪な政治性に気づくべきだ。

 最近読んだ『内村剛介ロングインタビュー』(恵雅堂出版 2008年)に、こんな件を見つけた。
 ハルピン学院で内村と同級で最年少ながら大秀才の中国人学生が卒業後の就職先を日本企業にした。その理由は「俺は中国人ってやつがわからないんだ。俺自身が中国人ってことになっているけれど、中国は知れば知るほどわからなくなる。それが中国ってもんだ」。「だから日本を選んだんだ」。「だって、お前ら、単純明快、底まで分かるからだよ」

 ここまでいわれたら、「子々孫々までの日中友好」なんぞはもちろん、尖閣列島もガス田も「戦略的互恵平等」もまるで形無し。そう律儀に信じているのは日本側だけ。毒入り餃子事件もまた、「だって、お前ら、単純明快、底まで分かるからだよ」などと北叟笑みながら対応されていたんだろうか。もしそうだったら、たまったものではない。

 だから中国とマトモに付き合うためには、中国人の振る舞いに込められた政治的意味合いを大前提にすべきだ。予断や思い入れは、断固禁物。それにしても、たかが毒入り餃子で中毒になってしまうとは、中国人の胃袋も随分とヤワになってしまったものだ。  《QED》