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最強のカメラ2    Hasselblad 他

Hasselblad 503CW
フィルム時代に一般的なカメラといえば35mmフィルムを使うカメラであるが、それ以前に二眼レフが流行った時代があった。二眼レフは、一般的にパタパタと瞬時に汲みあがる遮光フードを備えたウエストレベルファインダーが主流である。このウエストレベルは左右逆像に見えて縦位置で構えるのは、困難を来す。そこで使われたフォーマットが6×6というスクエアサイズ。フィルムを使い終わっても巻き戻す必要の無いワンウェイ構造だ。抵抗が感じられなくなるまで巻き上げて取り出し、裏紙末端近くについている乾燥した糊がついた帯を“ペロ”と舐めて、貼って終り。プロラボに行ってカウンターの女性の前では、幾分かの抵抗があったものだ。切手の裏を舐めてすぐの状態を考えていただければ分かり易い。

 このフィルムを使うカメラが35mmカメラより大きい中判カメラである。小生が中判カメラを手にしたのは、蛇腹式マミヤ6やソ連のルビテルなどが少年期にあったが、実質的に使うようになったのは、広告写真スタジオに就職してからだ。広告の世界では中判や大判が主流であった。
 機種は“ゼンザブロニカS2”である。シャッターを押すとバッシャーンと激しい音がして、ミラーが復元。ボディ横のクランクをカリカリと何回か回す。まるで釣りのリールを巻き上げているようにフィルムを巻き上げ、シャッターセットが完了するが、その最後にガキッという音が、不安にさせる。何かにつけメカノイズの激しいカメラであったのだが、その印象どおりに実によく壊れたカメラであった。世界最高峰と呼ばれる、ハッセルブラッドに比べ優れた機能を持っていた部分もあったが、何せ複雑な構造は、複雑なる稼動と部品を増やし、握った感じもずんぐりとしたものであった。このブロニカの特徴的な構造は、ピント調節用のヘリコイドがボディ側にあり、その機能だけ外すことも可能だが、その分、レンズが奥に入るそれによってミラーがレンズ後部に当たる為、通常上昇するミラーが下降する構造になっている。下降となるとピントグラスより入る光を防ぐために、遮光構造を持たせシャッターが切れたときは、一斉にその構造が作動するために、しかもその構造物の面積が大きいせいか、音も豪快で、実際、そのメカがバラバラになったこともあった。

zenzabronica s2
 目の前で壊れる分にはまだ良いが、一番困るのは、撮ったつもりでいて写っていない事。フォーカルプレーン構造のブロニカは、X接点があり、この位置以下が、フラッシュとシンクロする。これがずれると全く写らないのだが、シンクロしない現象が度々起こった。ここまでくるとさすがに経営者も機材を代えざるを得ない。今もブロニカの愛好家は御ありと思うので、あまり悪く言うと気分を害するが、仕事で使うには、この頃のブロニカは、厳しかったことは事実である。
 そこで、ハッセルシステムに入れ替えることになった。しかし、このハッセル、経営者が躊躇するだけある価格である。レンズは、国産の6倍くらいした記憶がある。(もっともデジタル時代の今は、国産も上級レンズは、バカ高くなったが)このときに導入したのが500CMと500ELであった。レンズシャッター式のハッセルは、その構造の殆んどがレンズに集中しボディ後部は、フィルムバッグという分離した機能があることから、ハッセルのボディはまさにレンズとフィルムを繋ぐだけの存在である。ただ、ハッセルは、部品点数が少ないことでも有名で構造的にシンプルかつ高い精度と工夫が成されている。
 例えば、ロールフィルムの平面性は自然の張力を用い、コマ間隔は、回転検出を採用している。巻き取るごとに太くなる回転検出は、かなりの精度が要求されるが、見事にクリアしている。単純化は強度にも繁栄される。レンズは複雑であるが、その価格からか、ボディ・フィルムバッグの一式で考えても安心のあるカメラであったことは確かだ。ただ、多重露光はいただけない。一度、シャッターを切って、第二露光をするためには、遮光用のスライドを差込、フィルムバッグを外しでシャッターセットを行なってから再度、フィルムバッグを装着する方法は、僅かでもずれが生じたら失敗となる、多重露光に何とも無神経な設計である。
 その後、発売されたフォーカルプレーン内蔵のFシリーズは、その点は改良されている。

Pentax 6×7
 中判カメラのトップブランドはハッセルブラッドであることは確かであるが、トップシェアとなると当時としてはマミヤ光機となる。マミヤは、一時35mmカメラも生産していたが途中から、中判に特化した。代表的な機種が、RB6×7である。レボルビング機能を持つことからカメラサイズは7×7サイズになるだけあって巨大なイメージである。後に出た電子制御式のRZ6×7は電子化を生かし、アオリ機能を加えながらもシャッター等の連動を果たしている。マミヤ以外で存在感を示したのがペンタックス6×7であろう。35mmカメラをそのまま大きくしたこのカメラは、見た感じの大きさの割りにミラーショックが少ない。中判カメラの特徴的な機能であるフィルムバッグ交換は出来ない。中判の強みはあったもののタクマーレンズは酷かった。同時期のハッセルと比較し周辺の流れや甘い感じの描写など、全紙サイズに伸ばすとその差は歴然であった。後にSMCペンタックスという名前でレンズの全面改良が行なわれ格段に描写が向上した。
 さて、ブロニカS2時代が過ぎ、各中判カメラメーカーも新製品開発に力を入れ、高いレベルになったと想像される。実際にそこまで使い込んでいないが、触れた感触は、どのカメラも引き締まった感じで使い勝手も良さそうだ。ただ、業務で使おうと思うとなかなか、ハッセルから離れられないのが現実であった。やはり、信頼度がそれだけ高かった訳である。そんなことから、中判最強はハッセルブラッド500CM&500ELとしたいが、その後のマミヤM645pro。更には、擦れ擦れになっても使い続けられているペンタ67が、本当は最強の中判カメラであるような気がしないわけではない。