この世界での神話U   ジナーP

 sinar P2 本文はP 資料sinar
 先のカールツアイスほどではないが、小生の周囲のローカルな範囲で“ジナー神話”がある。
もっともジナーは、よく出来たカメラで、神話に値するだけの性能を持っている。
あまり、一般的でないカメラなので簡単に説明すると一本のモノレールを軸に、前にレンズ、後ろに
フィルムを装着し、その間を蛇腹で繋いだ、カメラの原型が外観から理解できる。レンズを開いて後
ろのピンとグラスに映った映像状態を確認、調節し完了したら、レンズを閉じ、フィルムを装着し撮影
する。撮影手順に手間は掛かるが、今日のデジタルカメラも原理としては全く同じである。
 さて、このジナー、小生の身近なところで実力を現す、逸話がある。知り合いのカメラマンが国産の
トヨビューを使い、巨大冷蔵庫の中で撮影をしたときのことだが、乾燥した冷蔵庫のなかは、気温が
極端に低い以外は、通常の倉庫内に居るような感じだったが、冷え切ったカメラにフィルムを差し込
むためにピントグラスを持ち上げるレバーを上げたところ、バネが折れてしまったという。そこでジナ
ーを持って行きm難なく終えた、ということだそうだ。確かにジナーのスプリングは、車でいう、板バネ
状のリーフスプリングで、トヨの形状より遥かに高い強度がある。他にジナーは随所に工夫がなされ
自他共に認めるビューカメラの最高峰である。
 そのような事情からか、広告代理店最大手のD通N支社、出身者の間では、ジナーは殊更、評価
が高かった。何かにつけて「ジナーだったら・・・」で、例えば、リンホフBシステムを使っているカメラ
マンが、大量撮影時に片手操作のジナーなら撮影が早くできるのに・・・とか、真俯瞰撮影では、ジ
ナーの方がピントがずれにくい・・・とか、アオリがダイヤル式だから、簡単・・・だから、ちゃんとした
仕事ができる・・・とか、聞いている方としては、どちらかというと個人の技術によるように思えるのだ
が、とにかくジナーなら良い仕事が出来るらしい。
 ジナーPというカメラは、後ろのフレームを換えることで、4×5・5×7・8×10といった具合にサイ
ズが換えられる。8×10となると4×5の面積4倍で、用紙に例えるならA5に対するA3に相当する。
 ジナーはP2になってから、8×10専用のシステムを用意したが、Pの頃は、そのままフレームを換えて、光軸を画面の中心に持っていくた
めにフロンライズをいっぱいに上げ、リヤーをいっぱいに下げて使うことが多かった。Pにも8×10用の支持台が途中から出たようであるが、
大半が4×5のサイズアップだったようだ。つまりPは4×5において十二分にその威力を発揮するが、8×10においては、多少無理を感じさ
せる。ある日、そのスタジオにて8×10で撮影する機会があり、D通へジナーP8×10を借りた。様式は4×5ベースである。しかし、ジナー
信望者である彼らは、ジナーこそ最強のカメラである。ポラロイドは持ち合わせていなかったので、確認のために4×5のポラを8×10のフィ
ルムホルダーに半ば強引に貼り付け、いざ!テスト撮影。シャッターを閉じ、フィルムホルダーを差し込んだら後部フレームが、ズルッと移動
ピントがずれてしまった。まだ、本番ではないので確認しなおせばよい事であるが、ジナーPはピント調整にロックがついていない。滑る度合
いは、個体差もあるが、この出来事は、ジナー信望者には、ショックのようで、後々語られた。
 小生は、8×10に関しては、独立後、廉価な「タチハラ8×10」を使用した。木製フィールドビューのタチハラ(3トラック)は、構造的にジナー
のようなモノレールタイプほどのアオリはできない。しかし、可動部を上手に駆使すれば、かなり近い使い方が出来る。こと、フィルム装填に関
しては、構造的に力が分散しジナーPのように一箇所に力が集中しない分、安定感がある。高精密な複写ならジナーPのアオリ機能は有利で
あるが、通常撮影では、カメラの内面反射等以外は、基本的に写りへの影響は無い。したがって、小生には、8×10におけるジナーPは、さほ
ど評価をしていないところが本音である。ただ、小生は、下位機種のジナーF2を使用していた。これは、軽量で使いやすかったのだが、特筆し
たいこととして、スーパージンマー210mmというレンズを購入し、主力で使用し続けたところ、ことごとく、マンフロット製の雲台がダメになった。
それだけレンズ重量で負担が掛かるのだが、一見弱そうに見えるジナーF2は、問題なく使い続けることが出来た。印象では、国産のホースマ
ンL4×5より長持ちである。F2は小生にとってのジナー神話である。






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