民主党に提言する                 塚本三郎


 参議院も衆議院も、同じ国会である。今回の参議院選で圧勝したから、我々に政権を渡
せ、と叫んだ小沢一郎氏。しかし、直接には無理だから、一刻も早く衆議院を解散せよ。
その上、民意によって政権を渡すべきだ。これが民主党の大半の意見であろう。
 国民の真意は、果して安倍政権では駄目だから、この際、小沢民主党に政権を交代させ
たいと願って、大多数の有権者が民主党へ投票したのであろうか。
参議院選の民意
 参議院選中、安倍前首相は、天下分け目の戦い、と称し、今度の選挙は「安倍をとるか、
小沢をとるか」 の戦いだと、迂闊にも叫び続けた。その結果、自民党の大敗となったから
「天下を譲れ」 が民意だと主張する野党にも一理はあろう。
 しかし、参議院選で民主党が大勝したからといって、自民党に代って民主党へ政権を譲
れと言う、「政権交代の即断」 は、民主党の自制心の欠如を物語るのではないか。
 自民党よ香るなかれ、天下は君達の独捜場を許したのではない、それが天意ではなかっ
たか。そして衆議院選で、勝ち過ぎたがゆえの独走、及びその後の法制には、立派な成果
と共に、大きな傷跡も残された。行政改革に於ける地方の痛みは、一時的であったとして
も、暫くは踏み止まって、過疎地方の苦吟に耳を傾けよとの天の声ではないのか。
 民主党よ、君達は漸く、自民に対する国民の叱正を支えとして、堂々と対等の発言がで
きる権利を手にすることが出来たのだ。それと共に、自民党には冷静さを取り戻させる舞
台が出来た。それが今度の参議院選勝利の天意であろう。
 参議院の存在価値は、衆議院で議決された法案の、ゆきすぎの部分を切り捨て、足らざ
る部分を補うことを、最大の使命としている。それが、二院制国会の目的である。
 郵政民営化の是非を巡っての衆議院選では、大勝を得た与党ではあるが、自民党の大物
議員の中には、不信の挙に出た人も相当に居た。余りにも大雑把過ぎる法律であるから、
或る程度手直しをすべしとの民意と受け止め、それらの声に応える必要がある.
 参議院選は、それを求めての民意であって、「天下を民主党に渡せ」 との期待ではない。
その点、安倍、小沢両党首以上に、国民の意識の方が進んでいるとみるが、皮肉か。
 幸い、参議院選の野党の大勝により、与党自民党が、今日では全く「さまがわり」した.
野党を無視し勝ちであり、天下は俺達の手で動かして来たとの、かつての自負心が吹き飛
んだ。自負ではなく、自惚れが反省を余儀なくせしめ。.
 次の選挙は国民の眼の前で、民主党が、果して 「政権担当の責任感と能力」 を備えて来
たか否かの試金石となる。それが臨時国会である。率直に述べれば、天下の権を目前にし
て、両党の真の姿が本物かどうかが、国民に審判される、国政塩上の舞台劇でもある。
 昨年の衆議院選で自民が、今年の参議院選では民主が、何れも大勝した。
 同じ日本国民が、一年で正反対の投票を行なった0 それが民意とはなぜか。
 自民党も民主党も、さきの二回の選挙で 「勝ちと負け」 の、双方の経験を味わったこと
を、充分に反省し、検討されているとは思う。だが正面に出ている両党幹部の発言は、国
民の心とはかけ離れている.権力闘争とはいえ、俺が俺がの連続ではないか。
 民主党は、今回は俺達が勝ったから、その風向きの変わらないうちに、衆議院の解散を
と叫び、自民党は、逆風の納まるのを待ってと、時間稼ぎに苦心しているやにみえる。
 解散権は自・公政権の手中に在るから、あの参議院選の逆風の納まるまで、時間稼ぎを
心掛けているものとみる.時間を経れば良くなるとの判断は、自民党の自惚れである。
 与党への逆風に期待する民主党もまた、早い方が良いと願うのは、余りにも無責任な、
時の風任せではないか.
 結果として、相当の期間を経たならば、両党の本当の姿が露見されよう、自民党も民主
党も、解散までの期間こそ、国民の面前で、「日本国民の生活及び世界の安全と平和を担う
に足る政党」 として、両党の真価を国民に訴えることの出来る絶好の舞台となるはずだ。
 早い方が良いとか、遅い方が良いとか、勝手に判断するのは、国民の期待に反し、時の
風任せにすることで、国民を愚弄するものである。
民主党は政権担当の理念を
 永い間の保守政権に、国民は半ば、「うんざり」している.不幸なことは、野党に、政権
を担うべき指導者と政党が現れなかった.否、いっとき幾つかの非自民政権が出現した。
さりとて、その成果は、期待した歳月を待たず崩壊してしまった。
 今回、漸く野党民主党が参議院選で大勝した。その民主党は、小沢一郎氏をはじめ、か
つては自民党議員として、大臣を経験した人達も一、二に止まらない.かつて与党として
の閣僚経験者が或る程度の発言権を持って居る。我々はこの人達の言動に注目する。
 今後の民主党は、かつての日本社会党の如く、幾度か参議院選で、或る程度の勝利を待
つつも、政権を手に出来なかったことを反省して欲しい。
 反対する時には、「代案を持って臨み」相手を説得しなければならない.まして「政争は
水際まで」 で、外交を政争の手段に使うべきではない.これを堅持してこそ、国民の判断
は安心して 「天下を民主党へ譲りなさい」 と考えて、与野党の政権交代が出来る。
 残念なことは、今日迄の政権交代の歴史は、自民党内の 「政権のタライマワシ」 に過ぎ
なかった。今度こそ、本格的な与野党政権交代の政治ができるか否か.今回の参議院選は、
真の民主主義政治が出現するか否かの、歴史的変革期を迎えたと、期待する。
 参議院の存在は、前述の道理と共に、日本国家の将来と長期的展望を論じ、提言する処
に価値が在る.安倍前首相は、その趣意を信じ、防衛省昇格、教育基本法改正、そして高
級官僚の天下り禁止の為の法律等を強行した.そして、迎える参議院選の争点になると信
じて立ち向かった。しかし、既に報じられた如く、参議院選は全く異種の聞いを 「心なら
ずも強いられた」。
 選挙の審判が下った以上、民主党は天下取りに向かって、この重大案件 (安倍前首相の
行なった) について問題点の是正に、真剣に取り組み、修正を求めて来るであろう。
 そして、参議院を土台として、衆議院にユサブリをかけて解散を目論むとみる。
 その結果、参議院から送られて来た案件を衆議院で大いに論戦を重ね、一致点が見出さ
なければ、解散することもあり得る。
 その際の審判者は国民である。防衛も、福祉も、教育も、すべてバラマキは日本政府に
とっては、許される財政事情にない.具体的改革には、すべて数字が伴う.感情的な議論
や、単なる精神的お題目では政治にならない。
 敗戦後、初めて与・野党が何の拘束やコダワリもなく、天下分け目の大論争が行なわれ
ることを期待する.それが今臨時国会、そして次期通常国会である。
 民主党は、反自民で結集した、幅の広い、安心の出来る政党と見られている.安心出来
るということは、保守党支持者の意見をも受け容れる度量のある集団とみる。
 しかし、今回の小沢代表の発言は、極めて強硬であり、遮二無二、衆議院解散に持ち込
みたいとの感情が強すぎる。衆院の解散を願うことは、賛成である。だが、国会を混乱に
陥れ、国民生活と世界平和を、無視してまで押し付ける手法は、逆の結果となろう。
 民主党は小沢代表の強硬路線で一致している集団とは見られない.今回の参議院選で成
功したからと、気を良くし、今の処はまとまっているとみるのは邪推であろうか。
 国家の基本である重要案件は、まず民主党内で充分に議論を重ねるべきである。
 憶測すれば、民主党は、政治理念を異にする議員が混在する党であり、外交、防衛、教
育の論に深入りすれば、内部分裂の恐れもある。
新提案
 この際根本にある、憲法改正に対して、突っ込んだ論議にまで入って欲しい。
 福田新首相に、私はさきに提言したが、民主党にも次の三項目を具体的に提言する。
 その第一は 「実質的な教育勅語」 復活の提案を。
 大・中・小の学校教育については、多くが論じ尽くされている.しかし、家庭教育と社
会教育は、論外となっている。三つ子の魂百までと言われるように、日本の教育で最も不
足しているのは、子供の時のシツケである.「教育勅語の精神」は、再び日本国民が、尊敬
される国民となることの必須要件である。
 世界一の安全を誇り、治安と平和の国日本を取り戻すため、教育勅語に述べられている
徳目を復活する.その項目は、文明国すべてに共通する人間教育の原点である。
 その第二は、撤兵制実施の可否の議論を。
 国家在っての国民である。世界は未だ国連のみに依存する時代ではない。否、国連こそ、
国家という確飼とした独立組織の上に成り立っている。国民の愛国心なくして国家の威厳
は保たれない.繁栄も平和も文化も国家が単位である。
 かつて占領軍は、日本国民の国家意識の喪失を目的の一つとして、教育政策を強行した。
戦前の日本国民の愛国心に手を焼いたからであろう。愛国心の否定を日本の青年に浸透せ
しめて今日に至った。また、社会人としてのすべては、団体生活が基本である.規律、友
愛、責任の生活体験は、危険を伴う軍隊教育の中にこそ、生きた経験がある.軍事組織利
用の当否と共に、愛国心と共同生活体験こそ、若者が社会人としての出発点となるから。
 その第三は、防衛の為の核武装可否の議論を。
 日本は、非核三原則を宣言し、日米同盟の条約を堅持している。
 これが果して万全なのか。四陶の国際情勢の変化に対処する為、占領下に作られた憲法
の制約下では、ことある毎に、その場を糊塗する為の、臨時立法と、言い訳を重ね続けた
「奇異なる大国」 と化して今日に至っている。
 日本は核武装国家に取り陶まれている.核武装こそ、平和の為の絶対条件と誤信してい
るのが世界の趨勢である。日本も、世界一の核武装国米国と同盟を結んでいる.
 しかし、非核三原則によって、米国の核を持ち込ませない.こんな相反する約束で、米
国は日本を信用するのか.日本も米国を信用してよいのか.日本が核保有について真剣な
議論を重ねることによって、四囲の核所有国及び米国の真意も読みとれる。
 右三項目の提案は、「日本国憲法による現実無視」が基本にあることを承知しての提言で
ある。                         平成十九年十月上旬